『黄色い線まで』台本

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       ○繁華街(夜更け)
       始発を待つ仲間達、工藤と元宮はお互い何かを思案している様子。二人の脇に疲れ果て寝込んだ吉岡の姿

    工藤  「・・」
    元宮  「(咳払い、鼻をすする。横目で吉岡の姿を確認しつつも何かを考えている。吉岡のゆるやかな肩の動きで寝ている事に気がつく。彼のこの数年間を少し想像しながら鼻で笑う)」
    工藤  「(勿論笑った意味など理解していないが、吐息を含んだ柔らかな反応)ん?」
    元宮  「(吉岡の状態について説明する必要などないので)ううん(何でもない)」
    工藤  「(しかしそれが吉岡の事だと目線を追って理解する)あぁ(微笑む)」

         再びお互いの世界へ
         間

    元宮  「まぁ・・何か決まったら連絡して」
    工藤  「ん?あぁ(微笑む)・・ね」
    元宮  「うん・・」

         間

    元宮  「(ため息のような深呼吸)」
    工藤  「・・」
    元宮  「(指で柔らかなリズムをとる)」
    工藤  「・・」
    元宮  「ねぇ・・(なにやら独りで納得しているらしい)」
    工藤  「え?」
    元宮  「いやいや・・こっちもさ・・うん・・先の事さ・・考えないと」
    工藤  「・・(微笑むしかない)」
    元宮  「・・(そっぽをむき、色々考えている、まばたきが印象的)ね・・うん・・」
    工藤  「(うつむき微笑む。爪をいじる)え?別に辞めたいとかそういあれじゃないんでしょ?」

        間

    元宮  「うーん・・まぁ・・辞めたところでねぇ・・次がどうってのをあれしてるわけじゃないし・・」
    工藤  「・・(頷く)そっか・・」
    元宮  「うん・・」
    工藤  「(頷く)・・」
    元宮  「(頷く)・・」

         間

    元宮  「(鼻をすする)ま、頑張りましょう・・ね?」
    工藤  「ね」
    元宮  「(頷く)・・」
    工藤  「(頷く)・・」
    元宮  「そ」
    工藤  「(微笑む)」
    元宮  「・・無理しない程度に」
    工藤  「そりゃそうよ・・」

         間
         二人目が合い、笑う
         林が目線に入り、話を終わらせる

    元宮  「よし」

         林入場

    林   「(何食わぬ顔で腕をさすりながら)ちょい寒くない?」
    元宮  「何、彼女?」
    林   「え?何が?」
    元宮  「彼女でしょ?電話」
    林   「・・あぁ、まぁ・・うん」
    元宮  「・・っていうかさ・・起きてたんだ?」
    林   「・・(苦笑)」
    元宮  「・・え?だって連絡したんでしょ?」
    林   「(不服そうに)うん」
    工藤  「(苦笑)・・」
    林   「まぁ当人曰く?ビデオ見てたって言ってたけど・・(苦笑)どうだか・・」
    元宮  「何?機嫌悪かった?」
    林   「・・まぁ」
    工藤  「・・」
    林   「っていうか、前から言ってたんだぜ、ちゃんと・・どういう面子で呑むとかもさ・・」
    元宮  「(苦笑)」
    林   「何?」
    元宮  「いや・・でも朝までとは・・彼女も思ってないでしょ」
    林   「っていってもさ、別にやましいあれじゃないんだからさ・・なぁ・・いいじゃんかよ・・」
    工藤  「(苦笑)」
    元宮  「・・やめてよ、(婚約)破棄とか」
    林   「(鼻で笑う)」

         間

    元宮  「何?丁度ごたついてる時期?」
    林   「あぁ・・まさにそうっすね・・」

         間
         林そっぽを向いてため息

    元宮  「(林の背中を叩き)頑張れ」
    林   「まぁいいけどさ・・」
    元宮  「(苦笑)」

         間

    工藤  「(微笑む)」
    林   「(話をそらすように)何?こいつ(吉岡)は寝てるの?」
    元宮  「みたいよ」
    林   「マジで?」
    工藤  「(苦笑)」
    林   「(吉岡をさする)おい」
    元宮  「いいから」
    林   「おいって」
    工藤  「あ・・ハヤッシー」
    林   「ん?」
    工藤  「今日は本当有難う(おじぎ)」
    林   「あぁ・・いえいえ」
    工藤  「ねぇ、奢ってもらっちゃって・・」
    林   「何をおっっしゃる・・ねぇ・・こちらこそ・・こんなねぇ・・綺麗なお姉さま方と・・飲めるなんて」
    元宮  「(苦笑)」
    工藤  「(笑いながら)眠くない?」
    林   「あ、俺?」
    工藤  「うん」
    林   「・・まぁ、ちょとね」
    工藤  「(頷く)」

         間

    工藤  「(軽いため息)初恵は」
    元宮  「うん、まぁまぁ」

         間

    工藤  「今日はゆっくり・・ね、寝てね」
    元宮  「(微笑む)」
    林   「うん・・あぁ(屈伸)あたたたた・・」

         間

    林   「え、そう言えば送別会は?」
    工藤  「え?」
    林   「会社の」
    工藤  「あぁ、うん・・おととい?やってもらって」
    林   「ふーん・・」
    工藤  「・・」

         間

    林   「え、泣いた?」
    工藤  「・・まさか」
    林   「泣きそうだけどね、友ちゃんは」
    工藤  「そうかな?」
    林   「うん・・」
    工藤  「昔はね・・うん・・そういう事もあったけど」
    林   「何時?」
    工藤  「・・卒業式?中学の」
    林   「へぇ」
    元宮  「あ、私も泣いた。中学は」
    林   「え、元宮も?」
    元宮  「・・何でよ」
    林   「いやいや・・あぁ・・まぁ・・確かになぁ・・女子は結構・・泣いてたかも」

         間

    林   「へぇ・・」

         間

    林   「今日はあれだったね、中学ネタで盛り上がったね」
    元宮  「(苦笑)」
    林   「その倍年取ってるんですよ俺ら・・。信じられる?」
    工藤  「・・ね」
    元宮  「・・」

         間

    元宮  「そう言えば友子は何?どんな絵描いてたの?」
    工藤  「・・え?何で急に」
    元宮  「・・目指してたって言うからさ・・」
    工藤  「あぁ・・うーん・・どうだろ・・ねぇ」
    元宮  「ピカソみたいな?」
    工藤  「あぁ・・(曖昧な笑顔)」
    林   「ピカソって感じじゃないだろ・・友ちゃんは・・俺もよく知らないけどさ・・どっちかっていうとあの人じゃない?ほら・・あの・・何だっけ?・・滅茶苦茶有名な人・・名前出てこない兎に角有名な人・・一寸適当に・・名前言ってみて・・」
    元宮  「ゴッホ?」
    林   「違うな・・睡蓮描いた人よ、睡蓮」
    工藤  「モネ?」
    林   「そうそう、モネ。でしょ?ああいう・・こう・・ポワーンとしたさ・・絵でしょ?」
    工藤  「(苦い顔)まぁ・・うん・・どうだろ(うつむく)・・」
    林   「っていうか今度見せてよ」
    工藤  「もう無いよ」
    林   「いやいや・・だからまた始めるんでしょ?絵」
    工藤  「あぁ・・まぁ・・どうなんだろ・・(もうその話はやめてくれというような空気を醸し出す)うん・・じゃあまぁ・・機会があったら・・ね」
    林   「絶対ね」
    工藤  「(苦笑)」

         間

    工藤  「え?初恵はさ、本当にさ、翻訳家になりたかったの?」
    元宮  「あ?私?」
    工藤  「うん」
    元宮  「・・(苦笑)だからさっき『そうだ』って言ったじゃん」
    工藤  「・・あぁ(答えが出ない)」

         間
         元宮何か考えている
     
    元宮  「(鼻をすすり)んー・・まぁ当時はね・・そう・・」
    工藤  「・・」
    元宮  「え?何でよ」
    工藤  「いやいや・・」

         間

    元宮  「(頷いている)・・ま、そうなんでございます」
    工藤  「・・(微笑む)」
    元宮  「・・(そっぽを向く)」

         間

    林   「っていうかさ・・え?何でさ、諦めたの?」
    元宮  「・・はい?」
    林   「否、諦めた理由」
    元宮  「理由?・・(少し不機嫌そうに)さぁ・・」
    林   「え?」
    元宮  「・・だから覚えてません、そんな・・あれな話・・昔の話」
    林   「」
    工藤  「(林にその話はもう止めろという空気)」
    元宮  「
    林   「・・わかんないじゃん・・今からでもさ・・頑張ればねぇ・・ひょっとしてさ・・」
    工藤  「うん・・」
    元宮  「(頷く、適当に流そうとする)ね・・ていうかあんただってさ、パン屋やればよかったじゃん・・」
    林   「(苦笑)いや、だからね・・」
    元宮  「だってさ、継げばいいだけの話じゃん・・違う?」

         間

    林   「(苦笑)・・まぁ・・そうっすね・・はい・・」
    元宮  「そうだよ・・」

         お互い他人の事は簡単に言う。少し嫌な空気
         吉岡唸る

    林   「こいつだけか、夢が叶ったのは」
    工藤  「え、あれ嘘でしょ」
    林   「当たり前じゃん・・そんな・・不動産屋になりたい中学生なんか聞いた事ないよ」

         吉岡唸る

    元宮  「(友子に)あんたさ・・後で聞いてみなよ」
    林   「・・」
    工藤  「私?何で?」
    元宮  「否・・まぁ・・別に意味は無いけど・・」
    工藤  「・・気が向いたら・・」

         間

    元宮  「・・(ため息)」
    林   「・・何?」
    元宮  「え?何?」
    林   「・・いや、今ため息ついたでしょ?」
    元宮  「誰が?」
    林   「あなたですよ」
    元宮  「ついてないわよ」
    林   「ついたって(工藤に)ねぇ」
    工藤  「あぁ・・そうね」
    林   「(消極的だが自慢)イエイ」
    元宮  「・・ため息ついちゃいけないの?」
    林   「別にそんな事言ってないでしょ」
    元宮  「じゃあいちいち言わないでよ」
    林   「気になったの」
    元宮  「・・私が?(苦笑)」
    林   「ため息つくと老けるぞ」
    元宮  「そうですか」
    工藤  「ハヤッシー、女の子に老けたとか言っちゃ駄目だよ」
    林   「いやいやいや、老けたとは言ってないじゃん。老けるよって言ったの」
    工藤  「同じ事よ」
    林   「同じかな」
    工藤  「そうよ、そういうのに敏感な年頃なんだし」
    林   「年頃っていうような年じゃないでしょ」
    工藤  「だからそういう事を言っちゃ駄目って言ってるの」
    元宮  「(ため息)」
    林   「ほら?」
    元宮  「え?」
    工藤  「・・どうしたの?」
    元宮  「いや・・別に・・」

         間
         元宮思案している様子

    元宮  「いや・・一寸思ったの・・中学生に戻りたいなって・・一日でいいからさ」

         同じ事を考えていた工藤、林
         間

    林   「・・戻ってどうするのよ?」
    元宮  「どうしたいとかじゃなくって・・あの頃の気分をもう一度味わえたら・・最高の気分転換になるなって・・」
    林   「あぁ・・いいねぇ」
    元宮  「細かい事はさ・・忘れたけど・・兎に角楽しかったっていう記憶だけが残ってるのよ・・」
    工藤  「・・」



    元宮  「え?友子は」
    工藤  「うーん・・結構悩んでた時期だったからな・・どうかな」
    林   「・・」
    元宮  「それも分かるけど・・けどさ・・そういうのも?ひっくるめて楽しかったんだと思うの。友達にあれこれ相談したりしてさ・・」

         間

    元宮  「(思い出し笑い)まぁどうって事の無い悩みなんだろうけどね」
    林   「・・(小鼻を掻く)」
    工藤  「でも私・・あんまりそういう相談しなかったんだよね・・」
    林   「やっぱり友ちゃんは一人で悩むタイプだ」
    工藤  「まぁ、どちらかと言えば」
    元宮  「あんた大人しい子だったでしょ」
    工藤  「・・どうだろ」
    元宮  「絶対そうよ、見るからにそう」
    林   「そうそう、人に凄く気を使う子?控えめでさ・・クラスに必ずさ・・そういうコいたよね」
    元宮  「そうそうそう、友子見るとさ・・その子の事思い出すもん・・同じ友子って名前だし・・(思い出す)どうしてるかな・・あの子」
    林   「あれだね、友子って名前の人はきっと皆いい人なんだよ」
    工藤  「(苦笑)」
    林   「否、あながち嘘じゃないよ。他に友子って名前の子二人知ってるけど・・うん・・確かにいい子だった・・でも・・うん、この友子ちゃんが・・ね・・一番いい子だと思う」
    元宮  「よかったね」
    工藤  「そうかな」
    元宮  「何でよ、ベストオブ友子なんだよ」
    工藤  「(複雑な笑み)」
    林   「やっぱり友子ちゃんみたいな存在は大切なの、ね。第一この人(元宮)みたいな人ばっかだとさ・・ねぇ」
    元宮  「ちょと何?それはどういう意味?」
    林   「どういうって・・」
    元宮  「何?調和を乱すタイプって事?」
    林   「そうじゃないよ、何だろ・・よく言えば妥協しない?」
    元宮  「(鼻で笑う)妥協してないように見える?」
    林   「まぁまぁ、してるんでしょうけどね。そういうイメージがさ」
    工藤  「うん、私初恵の性格羨ましいもん」
    元宮  「馬鹿言わないでよ、こういう性格は絶対損するから」
    工藤  「そんな事ないよ」
    元宮  「するの!本人がそう言ってるんだから」
    林   「例えば?」
    元宮  「・・いいわよ、そんな事どうでも」

         吉岡うなり声

    林   「おい、吉岡!大丈夫かー」
    工藤  「ハヤッシー」
    林   「冗談冗談」
    元宮  「そんなに呑んでないよね」
    林   「相当大変らしいよ、仕事」

         間

    工藤  「・・そう」
    林   「まぁ、本人曰く?後輩より成績悪いんだってさ・・」
    工藤  「・・」

         間

    林   「友ちゃんさ、こいつからマンション買ってあげなよ」
    工藤  「(苦笑)何それ」
    林   「いや、冗談だけどさ・・」

         間

    林   「(友子に)言ってやってよ・・しっかりしろって」
    工藤  「・・(曖昧な笑顔)」 
    元宮  「まぁでも・・大変なのはね・・彼だけじゃないから・・」
    林   「お、いい事言うね」
    工藤  「・・」
    林   「(ため息)」
    元宮  「・・」

         間

    林   「(気持ちを切り替え)じゃあはい!手出して・・ほら」

         元宮、工藤、林、手を合わせる

    林   「エイエイオー」
    元宮  「はぁ」

         工藤、クスッと笑う
         林、寝ている吉岡の手をとり

    林   「エイエイオー」
    工藤  「だから」

         間

    林   「よし、ね!今日はぐっすり寝て、明日に備えるべし!」
    工藤  「・・」
    元宮  「そういえばヨッシー今日仕事なんでしょ?」
    工藤  「え?そうなの?」
    元宮  「うん」
    工藤  「やだ・・じゃあこのまま行くのかしら」
    林   「いや・・だって着替えてかないと・・」
    工藤  「・・そっか」
    林   「・・え?何で」
    工藤  「・・」
    元宮  「・・」
    林   「何でよ」
    工藤  「・・悪い事しちゃったなって・・つき合わせて」

         間

    林   「(ため息)優しいね・・本当」
    工藤  「・・」
    林   「でもどんなに遅くまで呑んでも、次の日は休まない、それがサラリーマンの使命ですから。心配ご無用」
    元宮  「(ため息)」

         吉岡のうなり声

    工藤  「・・大丈夫かな」
    元宮  「ヨッシー、あんたはもう・・どうしちゃったの?」
    工藤  「たまたまよ・・」
    林   「(苦笑)」

         吉岡唸る

    元宮  「友子彼の事気に入ってたんだよね」
    林   「・・へぇ」
    工藤  「っていうか昔の話でしょ。やめてよ」
    林   「いつ?」
    工藤  「・・大学入った頃?」

         間

    林   「告白したの?」
    工藤  「(笑いながら)そこまでのあれじゃなかったし・・うん」
    林   「・・」
    元宮  「・・」
    林   「(ため息)そうですか・・」
    工藤  「・・」

         間

    林   「(時計を見て)よっし」
    元宮  「何?」
    林   「一寸トイレ」
    元宮  「何処?」
    林   「コンビニ」
    元宮  「近い?」
    林   「一寸行ったとこに・・ローションが・・行く?」
    元宮  「あ、じゃあ。(工藤に)あんたは?」
    工藤  「大丈夫」
    林   「(工藤に)何かいる?」
    工藤  「ううん」
    元宮  「彼頼むね」
    工藤  「・・うん」
    林   「あ、では甘いひと時をどうぞ」
    工藤  「(冗談で返す)はい、過ごさせていただきます」

         林、元宮退場の後、工藤の表情に陰りが見える
         吉岡の唸り声に我に返り、彼に近づき眺めている


    工藤  「・・」

         吉岡にカーディガンをかける
         工藤、自分が少し肌寒い
         何事も起こらず少し時間が過ぎる
         工藤くしゃみを一つ

         音楽、ドビュッシー「アラベスク2番」
         夢の中
         三十歳の『現実』という夢から覚る。工藤慌てて背後にまわる重いため息をつく吉岡
         吉岡、工藤に気付き驚く
         吉岡様子が分からず工藤をみつめる
         
    吉岡  「何?」
    工藤  「・・え?」
    吉岡  「・・え?何」
    工藤  「あぁ・・あの・・吉岡君がいなくなったって・・皆騒いでて(困った笑顔)」
    吉岡  「・・はぁ」

         間
         吉岡、カーデガンに気がつき、工藤に返す

    吉岡  「あ、どうも・・わざわざ・・」
    工藤  「・・風邪引いちゃうよ」
    吉岡  「あ、俺は大丈夫だから、うん」

         間

    工藤  「皆のとこ・・行かないの?」
    吉岡  「一寸ここでやることがあるし」
    工藤  「(あたりを見回す)ふーん・・」
    吉岡  「だから気にしないでいいからさ・・いいよ、戻って」

         沈黙

    吉岡  「何?」
    工藤  「あ・・文化祭楽しかったね」
    吉岡  「・・そうね」
    工藤  「うん、楽しかった。劇って楽しいね」
    吉岡  「あんな脇役で?楽しかったんだ・・台詞もないのに」
    工藤  「うん、私は・・あれで充分」
    吉岡  「そう、良かったね」
    工藤  「うん」

         沈黙

    工藤  「吉岡君とさ・・」
    吉岡  「はい?」
    工藤  「吉岡くんと喋った事あんまりないよね、っていうか全然無いよね」
    吉岡  「そう?」
    工藤  「うん・・」
    吉岡  「・・工藤さん大人しいからな」
    工藤  「・・」
    吉岡  「いや、別に悪い意味じゃないよ」
    工藤  「(微笑む)・・」
    吉岡  「・・あれ?こっちきて?」
    工藤  「っと・・2学期からだから・・1ヶ月半かな?うん・・」
    吉岡  「(頷く)・・え、慣れた?」
    工藤  「・・一寸は」
    吉岡  「・・ふーん」

         沈黙、吉岡額を掻く

    吉岡  「俺こういう空気苦手なんだよね」
    工藤  「あの・・吉岡君ってさ、どこの高校行くか決めてるの?」
    吉岡  「あぁ・・まぁ何となくね」
    工藤  「え?何処」
    吉岡  「・・何で?」
    工藤  「え?」
    吉岡  「っていうか聞いてどうするの?」
    工藤  「・・いや・・何となく・・」
    吉岡  「え?自分は」
    工藤  「・・考えてるところ・・」
    吉岡  「頭いいから・・何処でも平気でしょ」
    工藤  「え、普通だよ」
    吉岡  「は?超いいじゃん」
    工藤  「そんな事ないよ。全然普通」
    吉岡  「(関心がない)そう・・まぁ、俺もそろそろ真剣に勉強しないとな・・マジやばいからな・・」

         間

    工藤  「え、将来何になりたいの?」
    吉岡  「え?」
    工藤  「吉岡君ってさ・・将来何になりたいとかあるの」
    吉岡  「・・何で?」
    工藤  「そういうのもさ・・考えて決めないと」
    吉岡  「・・」
    工藤  「・・」
    吉岡  「・・え?そういう自分は?画家にでもなりたいの?」
    工藤  「え?」
    吉岡  「だって美術室に張ってある絵さ・・工藤さんのなんでしょ?」
    工藤  「・・あぁ・・」
    吉岡  「あれ超上手いよね」
    工藤  「そんな事ないよ、全然普通」
    吉岡  「(嫌味で)そんな事ないよ、全然普通・・か。俺も言ってみたいよ」
    工藤  「・・」
    吉岡 「何?マジで画家なるの?」
    工藤 「・・(爪をいじる)」
    吉岡  「親に言った?」
    工藤  「(ううん)」
    吉岡  「何?反対されるから?」
    工藤  「・・」
    吉岡  「まぁいいけど・・頑張って」
    工藤  「ありがと・・で、吉岡君は?」
    吉岡  「俺?」

         現実
         吉岡の寝姿を見つめ、物思いにふける工藤
         
    工藤  「・・」

         夢

    吉岡  「・・カメラマン」
    工藤  「え?カメラマン?」
    吉岡  「そう、報道カメラマン・・戦場の写真とかをさ、撮りたいなって・・」
    工藤  「へぇ・・凄い・・」
    吉岡  「そう、俺そういう写真みてさ『あ、これだ!』って思ったんだよね・・命がけで撮ってるっていうの?すげー格好いいなって」
    工藤  「(微笑む)」
    吉岡  「・・まぁ、どうか分からないけど。高校入ったら速攻バイトして一眼買うんだ」
    工藤  「イチガンって?」
    吉岡  「一眼ってさ・・まぁいいや・・もう戻れば?」
    工藤  「私・・ああいう騒がしいとこ苦手だから」
    吉岡  「じゃあ・・家に帰ればいいのに・・」
    工藤  「・・帰りたいんだけど・・」
    吉岡  「何?」

         元宮入場、見慣れないツーショットだが、それに対する好奇心は感じさせない眼差し

    元宮  「何してるの?」
    工藤  「・・皆は?」
    元宮  「帰った」
    工藤  「・・じゃあもう帰ろうよ」
    元宮  「だから帰らないって言ってるでしょ?しつこいなぁ・・だ(から)あんた帰っていいって、ほら・・」
    工藤  「・・さっきお巡りさんが見まわってたし」
    吉岡  「マジ?」
    工藤  「うん」
    元宮  「そんなの関係ないじゃん」
    工藤  「何でよ・・」
    元宮  「っていうかさ、何か悪い事してる?うちら・・ねぇ」
    工藤  「・・してるんじゃない?」
    元宮  「何を?」
    工藤  「迷惑かけてるんじゃないかな」
    元宮  「誰に」
    工藤  「親に」
    元宮  「はぁ?だから関係ねぇっつの」
    吉岡  「何?どうしたの」
    元宮  「いいから話入ってこないでよ」
    吉岡  「何だよそれ」
    元宮  「うっせ、吉岡黙れ」
    工藤  「初恵ちゃん」

         現実
         眠っている吉岡を見ている工藤、背後に元宮
         
    元宮  「・・どう?」
    工藤  「全然起きない」
    元宮  「そうじゃなくって、『今の気分は』って聞いてるの」

         間

    工藤  「・・一寸は寂しいよ」
    元宮  「寂しいんだ」
    工藤  「虚しいっていった方がいいかな」
    元宮  「・・へぇ」
    工藤  「退院して戻った時ね、私がいなくても大した事なかったんだろうなって・・まぁそういう雰囲気を感じて・・うん・・それから何となくさ・・やる気がね・・起きなくて」
    元宮  「・・考え過ぎじゃない?」
    工藤  「(微かに笑う)そう、考え過ぎちゃうんだよね」
    元宮  「(苦笑)」
    工藤  「一生続けるって豪語してたのにさ・・たった八年で終わりよ。情けなくなっちゃう・・本当」

         間

    元宮  「・・まぁいいんじゃない?」
    工藤  「でも・・うん、自分なりに一生懸命やったつもり、だからもういいかなって・・」
    元宮  「そうよ・・」



    元宮  「で、どうするの?これから」
    工藤  「(笑う)だからほら、また絵でも習おうかって・・」
    元宮  「絵?あぁ、あれ本気なんだ」
    工藤  「うん、仕事もなるべく楽なのを探して・・そっちメインで」
    元宮  「・・」
    工藤  「今更どうかと思うけど」
    元宮  「何でよ・・いいじゃない」
    工藤  「・・その気持ちがね・・いつまで続くか」
    元宮  「(苦笑)」
    工藤  「そう・・単に辞める理由付けかもなって・・思っちゃうし」
    元宮  「・・(微笑む)・・絵か・・いいな、そういう特技があって」
    工藤  「初恵だって英検持ってるんでしょ?勿体無いじゃない」
    元宮  「否さ・・、仕事以外でね・・何か・・こう・・没頭出来るものがあるといいなって」
    工藤  「・・そっか・・そういうあれがあるとまた違うだろうね」
    元宮  「全然違うわよ・・」
    工藤  「・・」

         間

    元宮  「私も・・何か習おうかな・・」
    工藤  「(微笑む)いいんじゃない・・」
    元宮  「え?じゃあもしかしたら美大行ってたかもしれないんだ」
    工藤  「かもだけどね」
    元宮  「そしたら(からかうように)今頃そういう世界にいたんですかね?」
    工藤  「(微笑む)まぁ・・どうだかわかんないけど・・もしもあの時ってさ・・思うんだよね・・うん」
    元宮  「(頷く)」
    工藤  「・・でも・・まぁそういう事考えてる時って・・まぁ・・正直?・・上手くいってない時なんだよね(フフフ・・)」
    元宮  「(笑う)」

         間

    工藤  「・・まぁいいや」

         間

    元宮  「(吉岡を見る)・・」
    工藤  「あれ?そういえばハヤッシーは?」
    元宮  「置いてきた」
    工藤  「置いてきた?」
    元宮  「うん、寂しそうにさ・・タバコ吸ってたから・・なんかねぇ、そっとしておいた。邪魔しちゃ悪いから」
    工藤  「・・そう」
    元宮  「まぁ・・彼もそれなりに・・ね?背中にさ・・哀愁をさ・・こう・・ね、感じさせるさ・・年になって」
    工藤  「・・へぇ(微笑む)」

         間

    工藤  「そう言えばハヤッシーってさ・・年賀状さ、いまだに手書でくれるよね」
    元宮  「え?・・あぁ・・(笑う)そうかも・・」
    工藤  「・・」
    元宮  「え?それが?」
    工藤  「いや・・偉いなってさ・・」
    元宮  「・・ね・・昇進するわけだわ・・」
    工藤  「・・」
    元宮  「(林を遠くから確認)あ、きたきた」

         林入場

    林   「お前さ・・」
    元宮  「お、林課長。お帰りなさい」
    林   「っていうかさ・・何、どうしたのよ・・」

         夢の中

    林   「え?何?どうしたの?ねぇ」
    元宮  「・・(舌打)」
    林   「何?・・ひょっとして・・俺居ちゃまずい?」
    吉岡  「ふざけんなよ」
    林   「え?何何?これ」
    吉岡  「いいからさ・・お前ら帰れよ」
    元宮  「はぁ・・何でそんな事言われなきゃいけないのよ・・吉岡格好つけてんじゃねえよ・・」
    吉岡  「うるせえよ」
    林   「まぁまぁ・・とりあえずさ、もっと楽しもうよ」
    元宮  「何を?」
    林   「色々だべったりさ・・」
    吉岡  「いいから向こうでやってくれよ・・ほら(林を押す)」
    林   「だって皆帰っちゃったもん・・っていうか何でここにいるの?」
    吉岡  「いいだろ、そんな事どうだってさ」
    元宮  「(工藤に)え?こいつと何話したの?」
    吉岡  「・・」
    工藤  「と・・将来の夢とか」
    元宮  「はぁ?夢?」
    工藤  「うん」
    林   「あぁ、あれか・・無理無理」
    元宮  「何が?」
    吉岡  「お前さ、言うなよ、マジで」
    元宮  「え?何の事?」

         現実

    林   「何の事って・・頼みますよ」
    元宮  「いや・・あんたの為を思ってね、放っておいたのよ」
    林   「俺の為?どういう事よ」
    工藤  「・・(吹き出す)」

         夢の中

    元宮  「(吹き出す)」
    吉岡  「(舌打)」
    林   「無理だよね」
    元宮  「絶対無理。だって吉岡馬鹿だもん」
    吉岡  「言ってろよ」
    元宮  「僕の夢、カメラ小僧」
    吉岡  「カメラマンだよ」
    元宮  「じゃあ本当なんだ」
    林   「戦争の写真とか撮るんだろ?」
    吉岡  「あぁ・・」
    元宮  「でもさ、流れ弾とか当たったら死んじゃうよ?」
    吉岡  「そんな事分かってるよ。うるせえな」
    元宮  「じゃあ死んでもいいって事なの?ねぇ、そういう事でしょ?」
    吉岡  「・・そうだよ、でも死んでも作品はずっと残るわけだよ、俺はそういう仕事がやりたいわけ。分かる?」
    工藤  「うん」
    元宮  「格好つけてるだけよ、吉岡本当口だけだもん。注射でさえ怖がってる奴なのに・・友子信じちゃ駄目」
    吉岡  「否、絶対なってみせるから。そうしたらお前ら土下座しろよな」
    元宮  「いいわよ。百万回やったげる」
    吉岡  「命かけるか?」
    元宮  「書けるよ。ほら、命(指で書く)」
    吉岡  「そういう事じゃねぇよ。馬鹿」
    元宮  「うるせ、バーカ、ゲース」
    工藤  「初恵ちゃん」
    吉岡  「ガキ相手にしてられねぇよ」
    元宮  「おめぇだってガキだろ、バーカ」
    林   「サイン貰うなら今のうちだよ、こいつ密かに練習してるから」
    元宮  「超笑えるんですけど(笑う)」
    吉岡  「(遠くを見る)お前らには俺の才能が分かってないんだ」
    林   「いじけるなよ」
    吉岡  「いじけてねぇよ。誰が何と言おうと俺は夢を現実にするから。よし!よしよしよしよし!(気合を入れる)」
    林   「熱いな、どうしたんだよ」
    吉岡  「・・さっき嫌な夢を見ちゃったんだよ」
    工藤  「嫌な夢?」
    吉岡  「あぁ、ここでうとうとしてたらさ・・つい寝ちゃって」

         音楽「アラベスク2番」

    吉岡  「俺はサラリーマンなんだよ、毎日毎日満員電車に揺られて、遅くまで働いて、凄い疲れてるんだ・・よくいるだろ?酔っ払って道路で寝てるオヤジ。でもそれが俺なんだよ。で、お前らが冷たい目で見てるの。いやいやいや、こんな筈はない、これは夢なんだってずっと思ってるんだけど・・なかなか覚めなくって・・工藤さんが起こしてくれなかったら・・その先どうなっていたか」
    元宮  「(鼻で笑う)それ正夢よ、あんたはカメラマンになんかなれっこないの」
    吉岡  「っていうかお前もあれだったぞ、疲れたおばさんになってたぞ、しかも独身」
    林   「プッ」
    元宮  「そんなわけないでしょ、やめてよ・・私がそんな風になるわけないんだから」
    吉岡  「え?じゃあどうなるんだよ」
    元宮  「嫌だ、教えない」
    吉岡  「いいから言えよ」
    元宮  「教えないって言ってるでしょ」
    吉岡  「じゃあジャンケンで負けたら言えよ」
    元宮  「やだ」
    吉岡  「いくぞ(ジャンケン占いをして)はい、出さなきゃ負けよ」
    元宮  「やだって言ってるでしょ」
    吉岡  「はいジャーンケーン・・出さなきゃ負けだぞ、いくぞせーの」
    元宮  「誰がそんな事決めたの」
    吉岡  「うるせ、ほら、ジャーンケン」
    元宮  「やだやだやだやだ」
    吉岡  「ポイ!(グー)」

         元宮結局チョキを出して負ける

    吉岡  「はい勝ったー!いーえ、いーえ」
    元宮  「・・」
    林   「え?ちなみに俺は?」
    吉岡  「(プッ)お前もねぇ・・何ていうのかな・・まぁ一言で言えば」
    林   「うん」

         現実

    林   「哀愁?俺が?」
    元宮  「そう、独り寂しげにさ、タバコ吸って・・」
    工藤  「見たかったな」
    林   「何でよ、っていうか独り楽しげに出来るか?」
    元宮  「あんただったらね」
    林   「何?こうやってアハハ、アハハって(両手でピースサインをしながら蟹歩き)やってって欲しかったの?」
    元宮  「あぁ、それ見たかったな、尚更声かけないけど」
    林   「絶対今度やってやるから」
    工藤  「(フフフ・・)」

         間

    工藤  「(明るいため息)」
    元宮  「ねぇ、何処か移動する?まだ時間あるし」
    林   「何処」
    元宮  「ファミレス?」
    林   「ファミレスかぁ・・」
    元宮  「かぁ、って?」
    林   「俺あんまり好きじゃないんだよ」
    工藤  「どうして?」
    林   「ダラダラとさ・・長居しそうじゃん」
    元宮  「だから、始発までって決めとけばいいんじゃない?ピシッと」
    林   「ピシッとか・・」
    工藤  「40分ちょい?かな?」
    林   「40分・・ドリア・・どうかな」
    元宮  「じゃあお茶だけでいいじゃない」
    工藤  「別に始発じゃなくてもねぇ、休みなんだしゆっくりしていけば」
    林   「(指を指し)ほら」
    工藤  「え?何?」
    林   「ほらほら、それがダラダラの元なんだよ」
    工藤  「・・そうなの?」
    林   「そうだよ、第一さ、ファミレスで飲み物だけ注文するのって気が引けるじゃん」
    元宮  「え?何で?」
    林   「何でって・・気が引けるの、普通。特にこの時間は」
    元宮  「だからその理由を教えてよ」
    林   「っていうか、気が引けない理由を先に教えろよ」
    元宮  「理由なんてあるわけないでしょ?」
    林   「・・やっぱ向こうで生活してた人は違うよな」
    工藤  「うん」
    元宮  「え?どういう事、ねぇ」

         夢の中

    元宮  「どういう事よ?ねぇ、私ちゃんと言ったでしょ」
    吉岡  「そうじゃなくって、留学したい理由を説明しろって言ってるの」

         間

    元宮  「だから、英語を覚えたり?」
    吉岡  「覚えてどうするの?」
    元宮  「は?(苛ついている)だから、それを将来役立てるの」
    吉岡  「何に?」
    元宮  「え?何が?」
    吉岡  「だから、その先の話を今してるんだろ!ちゃんとした目的がなきゃ行く意味ないじゃん。留学しました、英語喋れるようになりました。で、どうしたいの?」
    元宮  「・・」
    工藤  「ちゃんと考えてるよ・・ねぇ」

         間

    元宮  「(小さい声で)翻訳家になりたいの」
    吉岡  「何?」
    元宮  「翻訳家になりたいの!」
    林   「翻訳家?へぇ」
    吉岡  「それを先に言えよ『私は翻訳家になりたいから留学します』って何で言えないんだよ」

         間

    元宮  「・・恥ずかしいじゃない」
    吉岡  「恥ずかしい?何で?」
    元宮  「・・なれなかったらさ」
    吉岡  「(鼻で笑う)いるよな、そういう奴」
    元宮  「は?どういう事よ」
    吉岡  「そのままだよ」
    元宮  「いいから分かりやすく言なさいよ」
    林   「まぁまぁ」
    元宮  「ねぇ、だから説明してよ」

         現実

    林   「だからまぁ、物事をはっきり言える?・・まぁこれからはさ・・そういう人材が必要なんだって・・」
    元宮  「(気持ちが何処かへいってる)」
    林   「うちの社長が言ってたの・・そう、だから・・元宮みたいな性格がね・・まぁ・・正直羨ましいと・・言いたいんですよ・・(工藤に)思うでしょ?」
    工藤  「(クスッと)うん」

         夢の中

    工藤  「・・そうかもね」
    吉岡  「だろ・・なれなかったらどうとか、そんな後ろ向きな考えしてるようじゃ、所詮無理に決まってるよ、はぁ・・翻訳家ねぇ(鼻で笑う)諦めたほうがいいよ。留学するだけ無駄」
    元宮  「・・あいつと同じ事いわないでよ!むかつくな」
    工藤  「・・もう忘れなよ」
    元宮  「いや、私一生忘れない」

         現実
         間

    元宮  「あ・・そうだ・・忘れた・・」
    工藤  「・・何?」
    元宮  「え、いや・・プレゼントさ・・買うの」
    林   「・・誰に?」
    元宮  「親父・・」
    林   「親父さん?」
    元宮  「(頷く)」
    林   「あ、誕生日か何か?」
    元宮  「そう(頷く)」
    林   「へぇ(感心)・・」
    元宮  「って言ってもあれよ・・うん・・向こうもさ、毎年くれるからさ・・お返しっていうのもあって・・」
    工藤  「仲いいよね・・本当」
    林   「(相槌の笑)」
    元宮  「いやいや・・そこまでのあれじゃないですよ・・まぁ昔よりはね・・うん」
    林   「え、何?」

         夢の中

    工藤  「初恵ちゃん今日お父さんと喧嘩したんだって・・」
    元宮  「余計な事言わないでいいから」
    工藤  「・・」
    林   「え、何何々・・教えてよ」
    元宮  「だからいいっていうの」
    林   「言ったほうが楽になるって」
    吉岡  「おう、言え言え」

         間

    元宮  「だから・・今日は遅くなるって言ったら・・ブツブツ言い出して・・そのうちそういう話になって・・」

         間

    元宮  「だってそれまではさ、好きなようにしろって言ってたんだよ、ひどくない」

         間

    吉岡  「だからか」
    元宮  「何が?」
    吉岡  「朝から人に当り散らして」
    元宮  「はぁ?当たってないわよ」
    吉岡  「当たってたっていうの・・折角皆でさ・・盛り上がってたのに・・お前がそういう態度でさ・・」
    元宮  「・・」
    吉岡  「思い当たるだろ、なぁ」
    林   「やめろって」

         間

    工藤  「今日本当楽しみにしてたんだよね」
    元宮  「そうだよ・・」

         間

    元宮  「私最近ついてないんだよ・・昨日だってさ・・クレープ食べてる時に銀歯取れて・・最悪じゃない?それ」

         間

    吉岡  「だからってさ・・そういう態度を人に取っていいのかよ」
    元宮  「・・」

         間

    元宮  「・・(小さな声で、不甲斐なく)どうもすみませんでした」
    吉岡  「(鼻で笑う)」
    工藤  「(頷く)」
    元宮  「・・」

         間
         話を変える

    林   「え?工藤さんちは親うるさいの」
    工藤  「え?」
    林   「親」
    工藤  「あぁ・・(苦笑しながら首をひねる)」
    林   「何?」 
    工藤  「んー・・分からない」
    林   「分からない?」
    工藤  「うん・・喧嘩とかしないから」
    林   「(苦笑)仲いいんじゃん」
    工藤  「・・どうなのかな」
    林   「だって色々言われないんでしょ?」
    工藤  「言うよ、ただ私も言われた通りやるからそれ以上の事は」
    林   「かぁ・・優等生」
    工藤  「そんな事ないよ」
    林   「でも親からしたらねぇ・・」
    元宮  「・・そう、だからウチの親も友子の事気に入っちゃって」
    吉岡  「(苦笑)」
    元宮  「『なのに何でうちの子はこうなんでしょう』だって」
    工藤  「いいよ、もう・・」

         間

    林   「え?今日大丈夫なの」
    工藤  「大丈夫じゃないけど・・っていうか林君のところは?」
    林   「俺?そうね・・気をつけなさいって言われたけど・・特に・・」
    工藤  「信じられない」
    吉岡  「すっげえいい親だよ、行くと必ずパンくれるし」
    工藤  「え?パン?」
    吉岡  「こいつんちパン屋さんなの。知らなかった?」
    工藤  「へぇ」
    吉岡  「南口の商店街の・・パンパカパンって店」
    工藤  「あ・・あの変な名前の・・あれそうなんだ・・」
    林   「まぁ・・よかったら買いに来てよ」
    工藤  「うん絶対行く・・そっか・・」

         間

    元宮  「何?継ぐの?」
    林   「・・まぁそうね・・まぁ・・継いでもいいかな」
    工藤  「偉いね」
    林   「まぁね」
    吉岡  「え?今何て言った?継いでもいい?」
    林   「うん」

         現実

    林   「あ・・そうだ、そう言えばお袋が『皆元気なの?』だって」
    工藤  「(微笑む)」
    元宮  「え?お母さん?」
    林   「あんたらうちに来たでしょ、昔」
    元宮  「え?いつ?」
    林   「あれ・・一年生じゃなかったっけ?」
    工藤  「うん・・確か」
    元宮  「え?・・」
    工藤  「で、ほら、鍋」
    元宮  「あぁ・・はいはい、思い出した思い出した・・行ったね・・で、鍋をね、そうそう・・いただいて・・へぇ・・そんな一回のあれで・・覚えててくれてるんだ」
    林   「そう、俺もさ・・女の子連れてきたのなんて初めてだったからさ・・まぁ、よく覚えてるみたい・・」
    工藤  「(微笑む)・・」
    林   「そう・・どっちが彼女か聞かれたもん」
    元宮  「(苦笑)で?」
    林   「うん、冗談でね・・友子ちゃんだって言ったら喜んでた」
    工藤  「(笑いながら)何それ」
    元宮  「(怒りながら)何よそれ」
    林   「いや、正直言うとね、元宮んちと一緒で、うちのお袋も気に入ったみたいよ、ほら、色々と手伝ってくれたじゃない?」
    工藤  「・・ただ手が空いてただけだから」
    林   「でも気が利く子だって感心してたよ・・」
    工藤  「・・そうですか」
    元宮  「・・友子はさ、人当たりがいいからね」
    林   「何、ひがみ?」
    元宮  「いや、そういう性格っていうのは本当特だなってつくづく感じるよ、周り見てても」
    林   「そりゃそうでしょ・・」
    工藤  「・・そうかな」
    元宮  「絶対そう、こういうコが?一番幸せにならなきゃいけないし・・」
    工藤  「・・(苦笑)」

         間

    林   「結婚は未だなの?って聞いてたよ」
    元宮  「・・」
    工藤  「(苦笑)」
    林   「予定は無しですか?」
    工藤  「・・そうですね、今の処」
    林   「・・」
    工藤  「・・いやほら、仕事辞めちゃうし?また一からね」
    元宮  「まだまだこれからですよ・・ね」
    工藤  「(微笑む)」

         間

    工藤  「え、お母さん元気なの?」
    林   「元気元気!お友達と旅行ばっか行ってるしもう・・店まだやれるじゃんって」
    工藤  「行かせてあげなよ・・今までねぇ・・あれしてたんだし」
    林   「そりゃ勿論ですよ」
    元宮  「(咳き込む)何?継げとか言われなかったの?」
    林   「またその話っすか」
    元宮  「いや、まぁいいけど・・」
    林   「っていうかまぁ、正直継がせたくなかったみたい。自分も苦労したからさ・・」
    元宮  「・・まぁそうだよね・・」
    工藤  「(頷く)」
    林   「だからまぁ、別の形でね・・親孝行出来ればとは思ってるんだけど・・どうかね」
    元宮  「(頷く)・・」
    林   「まぁ継ぐたって実際難しかったんだよ。・・あの商店街自体さ、結構さびれちゃってるし・・そんなんだからさ・・まぁ・・うん」
    元宮  「・・(咳き込む)」

         工藤、元宮を見る

    林   「まぁでも・・うん・・俺が本当に継ぐ気があったら・・状況は変わってはいるだろうけどね・・例えば駅前に出店するとか・・素材に拘ったり?・・うん・・今はそういうのじゃないとパン屋も厳しいよ」
    元宮  「うん、そういう方にも才能がありそう」
    林   「やっぱりそう思う?でもね、でもね、本当、大学落ちたら継ごうって決めてたの。だから勉強も大してしなかったし、一寸高望みして受けたら・・受かっちゃって?お袋は喜んでたけど・・俺は・・複雑だったな」
    工藤  「(微笑む)」
    林   「・・」

         間

    元宮  「人生どう転ぶか分からないね(咳)」
    林   「そうね・・どっちが良かったのか・・比べられないから分からんけど・・」
    工藤  「(頷く)」
    元宮  「でもうちらのなかじゃ一番の出世だからね。課長さん(咳)」
    林   「いやいや、だからうち10人そこそこだから・・(課長に)なれたんですよ」
    元宮  「でも(咳)凄いじゃない」
    林   「・・(首を傾げる)」
    工藤  「・・(元宮に)ねぇ一寸」
    元宮  「ん?どうしたの?」

         夢の中

    林   「どうしたの?」
    吉岡  「お前はその程度の意思なわけか?はぁ・・情けない」
    林   「情けない?」
    吉岡  「『継いでもいいかな』って、何だよ、それ」
    林   「否、本当にそう思ったから・・え?何が?」
    吉岡  「『継いでもいいかな』じゃなくって、『絶対継ぎたい』じゃないの?ねぇ」

         間

    林   「・・まだそこまでは」
    吉岡  「駄目だよそれじゃ」
    林   「じゃあどうすればいいんだよ」
    吉岡  「・・あのな、まずはこう言うの『弟子にしてください』って」
    林   「・・は?」
    吉岡  「それも玄関で土下座するんだぞ・・断られても諦めちゃだめなんだ。そういうのも計算なんだから。で、むこうが認めるまで絶対帰っちゃいけないの。分かる?」
    林   「・・っていうかもう言っちゃったし」
    吉岡  「何て?」
    林   「・・だから継いでもいいかなって」
    吉岡  「(落胆)馬鹿息子」
    林   「何でだよ」
    吉岡  「泣いてたろ」
    林   「泣いてないよ・・っていうか喜んでた」
    吉岡  「・・心では泣いてるの、中学生にもなって何でそんな事も分からないかな」
    元宮  「そんなこと何で分かるのよ」
    吉岡  「分かるんだよ、親の気持ちがさ」
    元宮  「何が親の気持ちよ、子供のくせに」
    吉岡  「(苦笑)俺はもう大人なんだよ」
    元宮  「法律では子供なの」
    吉岡  「でも俺は子供じゃありませんから」
    元宮  「じゃあ証拠を見せてよ」
    吉岡  「証拠?あぁ(ズボンを下ろそうとする)」
    林   「お、脱げ脱げ」
    工藤  「初恵ちゃん」
    元宮  「え?え!否、私別にそ・・そういう意味で言ったんじゃないからね!やめてよ」
    吉岡  「顔赤くなってんじゃねーかよ」
    元宮  「は?」

         現実

    工藤  「だから顔が赤いって」
    林   「本当だ」
    元宮  「・・あぁ・・うん、大丈夫大丈夫・・薬が切れただけだから・・ね」
    工藤  「・・何で言ってくれないの」
    元宮  「だから平気だって」
    工藤  「平気じゃないよ、ハヤッシー電車一緒だっけ?」
    林   「違うけど・・まぁそんな面倒じゃない」
    工藤  「じゃあ悪いけど家までさ、送ってあげてよ」
    元宮  「だから平気だっていうの!」
    工藤  「何でさ・・この人はこうなわけ?」
    元宮  「本当構わないで。今日はあんたが主役なんだから」
    工藤  「そんな事関係ないでしょ。あれだったら私も行くし」
    元宮  「いいからほっといてよ!」
    工藤  「何でよ」
    林   「(苦笑)」
    工藤  「え?」
    林   「いやいや・・」
    工藤  「(林の反応はあまり気にせず)駄目よ、大事にしなきゃ」
    元宮  「はいはい、今薬飲みますから・・ね」
    林   「友子ちゃんは優しいな」
    工藤  「え?」
    林   「本当優しいよね」
    工藤  「・・だから何?」

         夢の中

    元宮  「だから何よ」
    工藤  「一緒に帰ろうよ」
    吉岡  「そうだよ、工藤さんの気持ちも分かってやれよ」
    元宮  「いいのよ、どうせ私嫌われてるんだから・・居ないほうが向こうもせいせいしてるわよ」
    工藤  「そんな事思うわけないじゃない。いいお父さんよ」
    元宮  「だから他人にはいい顔するのよ。そういう所が嫌なのよ」
    林   「でも帰らないわけにもいかないでしょ」
    元宮  「否、向こうが謝るまで、私は絶対帰らないから」

         間

    吉岡  「はい(挙手)」
    元宮  「は?」
    吉岡  「お前も謝ったほうがいいんじゃない?」
    元宮  「は?何で私が謝らなきゃいけないのよ!」
    吉岡  「だから・・まぁ喧嘩なんてさ、どっちが良い悪いじゃないと思うんだよね。ちゃんと落ち着いて話せばさ、ある程度は分かってもらえるんじゃないかな。と思うよ、俺は。親父さんだって本当は仲良くしたいんだよ」
    元宮  「いや、それはあり得ない、絶対」
    吉岡  「いやいや・・っていうか親父さん悲しがってるぞ、ついこの前までお風呂も一緒に入ってたのに?今じゃ俺が先に入ると一度湯を抜きやがる。トホホって」
    元宮  「何で知ってるのよ」
    吉岡  「大体見当がつくんだよ」

         間

    吉岡  「まぁそんなことはどうでもいいから、ちゃんと話あえよ」
    林   「今日どうしたんだよ。お前じゃないみたいだな」
    吉岡  「そうかな」
    林   「ああ、だって普段は牛乳何秒で飲めるかとかそういう下らない話しかしないじゃん」
    吉岡  「・・俺そんなだったっけ?」
    林   「うん」
    工藤  「吉岡君は本当はこういう人なんだよ」
    吉岡  「まぁいいからさ、心配してるから早く帰れよ」
    林   「(吉岡に)お前は?」
    吉岡  「だから俺はここでやる事があるの・・気にしないでいいから」
    工藤  「・・いこ」
    元宮  「うん」
    林   「じゃあ俺もかえろうかな」
    工藤  「ねぇ、初恵ちゃん。もしあれなら私も一緒に行こうか?その方が初恵ちゃんのお父さんも落ち着いて話してくれるんじゃないかな?」

         間

    元宮  「・・まぁ友子がそう言うなら」
    林   「工藤さんってさ・・」
    工藤  「え?」
    林   「工藤さんっていい人だね」
    工藤  「・・」
    林   「優しくってさ」
    工藤  「・・(一寸だけ不満そうな顔)」
    林   「何?」
    工藤  「(首を振る)」

         現実

    林   「優しいねって。本当いい子だし」
    工藤  「・・(ムッとしながら)タクシー拾おうか?あれあなら私もついていくし」
    林   「ねぇねぇねぇ、ちょと無視しないでよ。頼むから」
    工藤  「何よ?」
    林   「何よって・・褒めてるんだよ。それ位分かるでしょ」
    工藤  「それがどうだっていうの。ねぇ、ちょっといい加減にしてよ」

         間

    林   「え?どうしたの?訳分からない・・え?何?
    工藤  「っていうかそれよりもさ、初恵の事気にするべきじゃない?」
    林   「いや・・そりゃあ勿論気にしてますよ・・え?」
    工藤  「じゃあ何で私の事を一々言うのよ・・ことある毎に優しいだの何だの言って・・それで私が喜ぶと思ってるの?そんな単純じゃないよ・・実際そんな私だって褒められるような人間じゃないんだからさ・・」
    林   「いやいや、一寸待って。ただ本当にそう思ったから言っただけですよ。(苦笑して元宮に助けを求める)え?何か俺言った事言ってる?(元宮に)」
    元宮  「(苦笑する)」
    工藤  「っていうかハヤッシーさ・・もっとさ、人を見る目を養った方がいいよ、本当・・」
    林   「え?それは何?俺を否定してるわけ?ねぇ」
    工藤  「は?そこまで言ってないじゃん・・何でそんなひねくれてるの?」
    林   「ひねくれてるのはどっちだっていうの!じゃあ何?俺は人を褒めちゃいけないんだ?ねぇ」
    元宮  「いいから、もう、やめやめ」
    工藤  「・・」

         間

    工藤  「初恵、水は?」
    元宮  「・・あ、無い」
    工藤  「・・じゃあ買ってくる」
    元宮  「・・ありがと・・」
    林   「・・」

         工藤退場

    元宮  「・・どうしたの?」
    林   「・・何がよ」
    元宮  「・・あの子も言ってたけど、しつこいくらいにさ・・いい子だなんだ言ってたじゃない?・・何か意味あるの?」
    林   「・・何で?」
    元宮  「だって・・一寸嫌味っぽかったよ。あれじゃいい気持ちしないのも分かるわよ(鞄から薬と水を取り出す)」
    林   「水あるじゃん」
    元宮  「あぁ、あったね」

         間

    林   「・・いや、正直言うとさ、いつも全く変んないからさ・・、ちょっとがっかりしちゃったんだよ」
    元宮  「・・」
    林   「だってもっと深い理由があって辞めるんだろ?それを少しでも?俺らには話して欲しかったんだよ・・それをさ・・まぁ全然いつも通りだったわけじゃん・・」
    元宮  「いつも通りだったね」
    林   「そう、そういうのが引っかかってね・・ちょっと・・うん確かに嫌味ですわな・・」
    元宮  「・・」
    林   「けどそんな事で怒るか?あの性格で・・」
    元宮  「まぁ・真面目だからね・・逆に流せないんじゃない?・・特に今は?・・うん・・」
    林   「・・」

         吉岡うなされる

    林   「・・」
    元宮  「・・ま、そういう事です」

         間

    元宮  「どうするの?」
    林   「いやいや・・ちゃんと謝りますよ・・」

         間

    林   「今行った方がいいよね?」
    元宮  「・・さぁ(首を傾げる)」

         間、林大きく深呼吸

    林   「・・(歩いていく)」
    元宮  「(一緒に)行こうか?」
    林   「(苦笑)・・」

         林、元宮退場
         夢の中
         吉岡遠くを見つめる。工藤小走りで入場

    吉岡  「・・帰ったんじゃないの?」
    工藤  「一寸・・うん・・待ってもらってる」
    吉岡  「・・まだ何か用?」
    工藤  「うん・・」
    吉岡  「っていうか平気なの?うち厳しいんでしょ?」
    工藤  「・・(頷く)」
    吉岡  「こんな事でさ、怒られるのも?馬鹿馬鹿しいでしょ」
    工藤  「・・」
    吉岡  「じゃあ早く帰りなよ」
    工藤  「あの・・」
    吉岡  「ん?」
    工藤  「気になったんだけどさ・・私はどうなってた?吉岡君が見た夢でその・・大人になった私は」
    吉岡  「・・あぁ・・」
    工藤  「・・」
    吉岡  「御免・・出てなかった」
    工藤  「・・そっか・・」
    吉岡  「・・何で?・・」
    工藤  「・・聞いてもらっていい?」
    吉岡  「何?」
    工藤  「何かね、ウチの親段々厳しくなってるような気がするの」
    吉岡  「・・はぁ・・へぇ」
    工藤  「絵だってね、昔は応援してくれてたの。そういう教室も通わせてくれたし・・でも最近さ、急に態度が変わって『絵で食えるわけ無いだろ』って・・言われて・・うん、だから私は将来どうすればいいのか悩んじゃって・・何も手に付かない状況で」

         間

    吉岡  「成る程・・ね」
    工藤  「うん」

         間

    吉岡  「あの・・何も知らないのに言うのもあれだけど・・毎日毎日せっせとさ、描いてた?絵。」

         間

    工藤  「(手をもじもじさせている)」
    吉岡  「何?」
    工藤  「・・かも」
    吉岡  「でしょ?そういうのを見てたんだよ・・『この程度じゃ何れ苦しむだけだから?いっそ普通に生きる道を選んだほうがこの子の為だ』って思ったんじゃないかな・・つまりこうなったのは・・」
    工藤  「・・」
    吉岡  「工藤さんの努力不足じゃないかな?・・正直言うとね、絵は上手いと思ったけど・・その・・俺が感動した写真なんかと比べると・・今ひとつ心に来るものがないんだよね・・うまくまとまってるなって思ったのけど・・工藤さんっぽい絵っていうか、性格が出てるなって・・」
    工藤  「・・」
    吉岡  「え?分かる?俺の行った事」
    工藤  「うん・・先生にも言われた事があるし」
    吉岡  「・・(頷く)そ」

         間
         
    工藤  「普通に生きるか・・つまらないな」
    吉岡  「(苦笑)否、普通に生きるのもね、結構大変なんですよ」
    工藤  「え?」
    吉岡  「まぁどうであれ・・生きるって事は大変なの」
    工藤  「・・」
    吉岡  「兎に角今はあれだぜ、自分のやりたい事をやらないと後悔するよ・・」
    工藤  「・・出来るかな」
    吉岡  「出来るよ。ただね、今言ったようにやる気?それを見せないと親の気持ちも変わらないと思うし、願いも叶わないと思う・・」
    工藤  「・・だよね」
    吉岡  「そう、だからうん、頑張らないとね」

         間

    工藤  「でもさぁ・・」
    吉岡  「何?」
    工藤  「吉岡君なら絶対カメラマンになれるよ、私が保証する」
    吉岡  「(苦笑)そうかな」
    工藤  「うん、考えてる事がちゃんとしてるし・・本当同い年なんて思えない」
    吉岡  「(苦笑)」
    工藤  「そう・・、疲れたサラリーマンなんて絶対あり得ない。そんな夢早く忘れなよ」
         音楽「アラベスク2番」
         間
     
    吉岡  「・・(頷く)ね」
    工藤  「・・」
    吉岡  「うん、だから工藤さんも一緒に頑張ろうよ」
    工藤  「うん」

         現実(三秒位)
         依然眠り続けている吉岡を見ている工藤

    工藤  「・・」

         夢

    吉岡  「・・いや・・(気分一新)そうだ。よし約束しよう、うん。将来またここに集まってさ、その時は工藤さんが画家で、元宮は翻訳家?俺がカメラマンで・・林は・・絶対パン屋継がせよう。で、お互いを尊敬し合うの。夢が叶ったなって、これ凄い事じゃない?」
    工藤  「うん」
    吉岡  「なぁ!ハハハハ・・楽しみだな・・頑張らないと」

         現実(三秒位)

    工藤  「・・」

         夢

    吉岡  「いやぁ・・今からワクワクするな・・きっとね、俺が戦地から帰ったばっかりで汚い格好してさ『やぁ、お待たせ』って。ケンシロウみたいな体でさ、でっかいバッグ小指で持って?。で『今夜また旅たつから』ってさりげなく言うんだよ、それをさ、ベレー帽被った工藤さんが『あ、これ初めて賞を取った作品なの、これは吉岡君にあげるって前から決めてたからって』それが凄くいい絵なんだよ、しかも俺の大好きな影絵。で、元宮はさ『これ私が翻訳したの、向こうで読んで』『おお、お前もこんな本を訳すようになったか』って感動するの、『エマニエル婦人』とか?で、林は・・勿論パンをくれるわけだ、菓子パン!こういうあれ(コック帽)を被ってさ(フフフ・・)で、お返しに俺がさ、『写真撮るからはい皆集まって』って・・皆もうすっごくいい顔してるの・・毎日が充実してるからさ」

         元宮、林入場

    元宮  「友子行くよ」
    吉岡  「お!待ってたぞ、将来の翻訳家とパン屋さん」

         現実(三秒位)
         沈黙する三人
         夢

    吉岡  「なにボーっと立ってるんだよ、ほら、集まって」
    林   「何するの?」
    吉岡  「記念写真を撮るんだよ」
    林   「・・っていうかカメラは?」
    吉岡  「・・無いけど・・俺の心で撮るから」
    元宮  「何馬鹿な事言ってるの?友子帰るよ」
    工藤  「吉岡君は真剣だよ」
    吉岡  「だからこれをいつか実現させるの、その為の練習よ、練習」

         現実(三秒位)
         寝ている吉岡を見つめる三人

         夢の中
         吉岡、意気揚々と三人を撮影しようとしている
         元宮、林、工藤の背後に立つ、三人とも無表情

    吉岡  「いくぞ・・ハイチー・・何だよ・・皆笑ってる筈だろ?駄目だよ、そんな顔してちゃ、はい、いくぞ・・将来の自分を思い浮べろよな・・いい顔してる筈だろ?」

         三人笑う

         現実
         工藤は眠った吉岡を見つめている

    工藤  「・・」
    林   「・・あの・・もうちょいで・・電車・・(ハハハ)はぁ・・」
    工藤  「・・そう・・御免ね、さっき」
    林   「え?あぁこちらこそ・・」

         間

    元宮  「(吉岡を見ている工藤に)何?」
    工藤  「ううん、たださ・・ヨッシーどんな夢見てるのかなって・・」

         吉岡唸る

    元宮  「またこの姿が似合う事似合う事」
    林   「なぁ、こいつは。自分だけ忙しいような顔して・・もっと気を使え」
    工藤  「そんな事ないよ、よく相談に乗ってくれたし」
    林   「・・あ・・あ、そうなんだ・・」
    工藤  「うん。ヨッシーが言ってくれたの・・うん、やりたい事があるなら今からでもね・・遅くないって」
    元宮  「・・」
    工藤  「凄く羨ましがってた・・自分にはね、もうそういう気持ちが無いって・・まぁ本当かどうか分からないけど・・」
    元宮  「(軽く笑う)」

         三人力なく笑う
         上手側朝日で徐々に明るくなってくる

    工藤  「あ・・ねぇ、ほら」
    林   「あ・・」

         間

    元宮  「・・」
    林   「・・」
    元宮  「(微笑む)」

         間

    工藤  「何か・・帰って寝ちゃうのが勿体無いね」
    林   「じゃあ、海まで行こうか?(青春のポーズ)」
    工藤  「嘘でしょ?」
    林   「・・否、皆が乗り気なら?」
    元宮  「私行かないよ」
    林   「・・言うと思ったよ」

         和やかな空気

         夢の中
         
    吉岡  「はいじゃあラスト一枚ね・・もう最高の顔しろよ」

         三人眩しそうな目をする

    林   「おい」
    吉岡  「ん?(振り返ると朝焼け)おお!」

         しばし朝日を眺める四人

    吉岡  「なんか・・いいなぁ」
    元宮  「どうしよう・・」
    林   「さすがに朝帰りはまずいな」

         工藤うなだれ座り込む

    元宮  「ちょ・・友子」
    吉岡  「まぁさ、落ち込んでも仕方ないじゃん・・君らまだ若いんだから、こういう事もきっといい思い出になるよ。うん・・夜明けだよ、夜明け!もっと清清しくさ」
    元宮  「何他人事みたいに言ってんのよ」
    吉岡  「違う違う、人生こういう事もあるんだって事、今は・・あ、そう・・あっ見えた見えた、これを待ってたんですよ、ほら、富士山!見えるだろ?ビルとビルの間にさ・・そう、見えてたんだよ、この時はさ」

         現実
         間

    元宮  「じゃあ行く?そろそろ」
    工藤  「うん・・」

         間
         照れくさそうにする三人

    林   「まぁ・・また近いうち合おうよ」
    元宮  「そんな事言ってまた二年位会わないんじゃないの?」
    林   「俺の式があるでしょ」
    元宮  「あぁ・・っていうか本当にやるの?」
    林   「やりますよ・・何それ」
    元宮  「だって・・上手くいってなさそうじゃん」
    林   「いや、まぁ・・今こういう時期だからだよ・・バタバタして・・」
    元宮  「・・そうですか」
    林   「すみませんね・・ご心配おかけして・・」

         間

    工藤  「詳しい事決まったら連絡頂戴」
    林   「うん・・はい」

         吉岡を見つめる三人
         
    元宮  「そういえば最近夢を見たっていう記憶がない」
    林   「あぁ・・俺もそうだ」
    元宮  「見てないのかな」
    工藤  「・・すぐ忘れちゃうのよ」
    元宮  「・・そっか」

         間

    元宮  「じゃあ今日は忘れないようにしよう。無理だろうけど」
    林   「だろうね・・」

         間

    元宮  「よしっと」
    工藤  「・・」

         間

    元宮  「あ・・じゃあ最後に友子から一言」
    工藤  「あ・・えーっと・・そうね・・」

         夢の中

    林   「え?何処何処・・あ、本当だ、見える。へぇ・・」
    元宮  「あぁ・・」
    吉岡  「あぁって・・もっと感動しないの?」
    元宮  「だってちょっとしか見えないじゃん」
    吉岡  「ちょっとだって富士山は富士山だろ、俺はこれだけを見る為にさ・・おい、中学生お前ら、この光景を胸に仕舞い込んでおけよ・・ほら、工藤さんも元気出して・・さっき言った事をさ・・忘れないでくれよ」
    林   「お前はオヤジかよ」

         工藤無表情で立ち上がり朝日を眺める

    吉岡  「・・」
    林   「・・」

         工藤深呼吸を一回して

    工藤  「ヤッホー!」
    吉岡  「え?」
    工藤  「ヤッホー!ヤッホー!」

         音楽
         工藤よろける

    吉岡  「お、凄いよ、工藤さんやるじゃない、おれビックリしたよ。その気持ちが大切なのよ。お前(林)もお前(元宮)も、言ってみろ」

         現実

    工藤  「・・まぁ、今度こそ頑張ってみせます」
    林   「・・何を?」
    工藤  「・・色々」
    元宮  「頑張ってたじゃない・・」
    工藤  「うん、それで自信がついた。だからさ・・これからはもっと前向きにね・・うん・・期待してて」

         間

    元宮  「・・(拍手)頑張れ」
    林   「(拍手)」

         工藤少し涙ぐむ

    工藤  「・・(拍手)有難う。ハヤッシーも有難う」
    林   「どういたしまして」
    工藤  「本当御免ね・・今日言った事忘れて」
    林   「いやいや・・嬉しかったよ・・友子ちゃんもちゃんと怒れるんだなって・・うん」
    工藤  「今度二人で呑もうよ・・私奢るから」
    林   「え?マジ?本当?」
    工藤  「うん」
    林   「え、マジで嬉しい・・じゃあ・・楽しみに・・してます」
    工藤  「・・頑張ろうね」
    林   「勿論ですよ・・え?じゃあいつ会う?来週?」
    工藤  「え?もう?」
    元宮  「おい」
    林   「だって嬉しいんだよ・・うん、今日はいい収穫があった」
    工藤  「結婚おめでとうね。お幸せに」
    林   「有難う(握手)」

         夢の中

    林   「(照れてる)ヤッホー」
    吉岡  「何だそりゃ」

         現実

    工藤  「初恵も頑張って」
    元宮  「はい、どうも」
    工藤  「無理しないでよ」
    元宮  「有難うございます」
    工藤  「また・・」
    元宮  「でもさ、もしあれだったら本当教えてね。その・・絵の教室?私も習うかもしれないから」
    工藤  「え?じゃあ一緒にやれるといいね」
    林   「本当なの?それ?」
    元宮  「まぁ、選択肢の一つとしてね・・何かやりたいと思ってたからさ」
    林   「へぇ」 

         夢の中

    元宮  「(小さく)ヤッホー」
    吉岡  「駄目だ駄目だ駄目だ。おじさんが見本を見せてやるから見ておけよ」

         現実

    林   「まだまだ捨てたもんじゃないね、俺らも」
    元宮  「当たり前じゃない・・これからよ勝負は」

         工藤、吉岡の元へ

    工藤  「だからヨッシーも大変だろうけど頑張って欲しいな」
    林   「友子ちゃんに励まされてどうするちゅうねんなぁ・・っていうかいつまで寝てるんだよ、こいつ」
    元宮  「もういい加減ねぇ・・起こさないと・・」
    工藤  「え?何?」

         吉岡小さな寝言が聞こえる
         他の三人フリーズ

    吉岡  「駄目だ駄目だ駄目だ・・おじさんが見本をおじさんが見本を見せてやるからみてけよ」

         吉岡むくりと立ち上がる

    吉岡  「(咳払いののち、必要以上に力む)ヤッ!(むせる)」
         
                               終わり

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